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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)949号 判決

原告

鎌田繁昌

ほか一名

被告

栄光交通株式会社

ほか二名

主文

一  被告栄光交通株式会社及び被告井上則夫は、各自、原告鎌田繁昌に対し、一七六万二七九二円及びこれに対する昭和五九年七月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告鎌田繁昌の被告栄光交通株式会社及び被告井上則夫に対するその余の請求並びに被告佐藤音一に対する請求をいずれも棄却する。

三  原告村松茂夫の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告鎌田繁昌と被告栄光交通株式会社及び被告井上則夫との間に生じた分はこれを一〇分し、その一を被告らの、その余を同原告の、同原告と被告佐藤音一との間に生じた分は同原告の各負担とし、原告村松茂夫と被告らとの間に生じた分は同原告の負担とする。

五  この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告らは、各自、原告鎌田繁昌(以下「原告鎌田」という)に対し、一五一〇万三五八一円及びこれに対する昭和五九年七月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは、各自、原告村松茂夫(以下「原告村松」という)に対し、一一万六六六七円及びこれに対する昭和五九年七月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  被告ら

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  原告ら

1  事故の発生

原告鎌田は、昭和五九年七月八日午後一時四〇分ころ、原動機付自転車(足立区と五三一九号、以下「甲車」という)を運転して、東京都足立区六町四丁目七番先の信号機の設置されていない十字路交差点(以下「本件交差点」という)を直進しようとした際、交差道路左方路(一時停止の標識がある)から同交差点を直進通過しようとした被告井上則夫(以下「被告井上」という)運転の普通乗用自動車(タクシー・足立五五か一四一八、以下「乙車」という)の、後部右側に衝突した(以下「本件事故」という)。

2  被告らの責任原因

(一) 被告栄光交通株式会社(以下「被告会社」という)は、乙車を所有し、自己のため運行の用に供していたものであるから自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という)三条に基づき、また、被告井上を使用中のところ、同被告が被告会社の事業執行中に本件事故を惹起させたものであるから民法七一五条一項に基づき、本件事故により原告らが被つた損害を賠償すべき責任がある。

(二) 被告佐藤音一(以下「被告佐藤」という)は、被告会社の代表取締役であり、被告会社に代つて被告井上の選任監督を行つていたものであるから、本件事故の発生につき同被告の選任監督を怠つたことにより民法七一五条二項に基づき、本件事故により原告らが被つた損害を賠償すべき責任がある。

(三) 被告井上は、制限速度(時速三〇キロメートル)以下で優先道路を走行中の乙車の進行妨害をした過失、又は、仮にそうでないとしても、見通しの悪い本件交差点を十分な一時停止をせず、直近に迫つた甲車の走行の安全を妨害した過失により本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づき、本件事故により原告らが被つた損害を賠償すべき責任がある。

3  原告鎌田の傷害の内容・程度と治療の経過

原告鎌田は、本件事故の際転倒し、左肘部、左外顆部擦過創兼打撲、右下腿内出血等の傷害を負い、このため手、腕、足のしびれ、痛み、下肢のむくみ、膝のふるえ、歩行障害などの後遺障害がある。右後遺障害は、昭和五九年一二月二八日以降も少なくとも自賠法施行令二条別表後遺障害等級(以下「後遺障害等級」という)一四級該当程度のものとして残存した。

なお、同原告は、右傷害の治療のため、昭和五九年七月八日から同月三一日までの二四日間のうち一八日等潤病院に、同年八月二日から同年一二月二八日までの一四九日間のうち七八日桜井指圧治療院にそれぞれ通院した。

4  原告らの損害

(一) 原告鎌田 一五一〇万三五八一円

(1) 治療関係費 四六万六二〇〇円

等潤病院、桜井指圧治療院における治療関係費であるが、被告会社においてすべて支払ずみである。

(2) 通院交通費 一三万四三一〇円

昭和五九年七月八日から同年一二月二八日までの通院に要した費用

(3) 食品材料腐敗損 二五万六五〇〇円

原告鎌田の営むお好み焼店の営業が本件事故のため長期間休業を余儀なくされ、本件事故前に仕入れした材料が腐敗したことによる損害

(4) 珈葡紀の休業損害、逸失利益 一〇二六万二七〇七円

原告鎌田は、昭和五六年四月以来お好み焼店珈葡紀(以下「珈葡紀」という)を経営していたが、そのかたわら昭和五九年四月ころからは原告村松の経営する日本そば屋藪重(以下「藪重」という)に調理兼配達係として勤務するようになり、以来本件事故当時まで月二日の休みを除き毎日、午前八時から午後四時までは藪重で働き、午後五時から午前三時までは珈葡紀の営業に当たるという精勤であつた。ところが、本件事故のため、藪重の勤務は不可能となり、また、珈葡紀についても長期休業を余儀なくされ、再開後も休業による客離れ等のため営業収益は大幅に減少するなど重大な損害を被つたものである。

そこで、藪重関係の損害は後に述べるとして、以下に珈葡紀関係の休業損害、逸失利益等の損害を述べると次のとおりである。

(主位的主張)

ア 休業損害 二四一万八九一六円

原告鎌田は、本件事故による受傷のため昭和五九年七月八日から同年一〇月一四日までの九九日、約三・三か月間珈葡紀を休業した。この間の休業損害額は、本件事故前六か月を平均して求めた一か月当たりの収益四七万七七五一円(いずれも一か月平均の売上一一五万二一七八円から仕入額三七万一五〇七円、固定経費二五万五二五四円(家賃一一万円、水槽タンク設備費用一万円、減価償却費七万五八一四円、基本水道料三四四〇円、基本電気代六〇〇〇円、女子パート給料五万円)及び変動経費四万七六六六円(固定経費に計上した以外の水道料七〇〇〇円、電気代二万円及び接待費二万〇六六六円)を控除したもの)に休業中も支出を余儀なくされ、したがつて損害とみるべき右固定経費二五万五二五四円を合算した額の三・三か月分である。

(47万7751円+25万5254円)×3.3=241万8916円

イ 逸失利益等 七八四万三七九一円

原告鎌田は、珈葡紀の営業を昭和五九年一〇月一五日に再開したが、三か月余の休業による客離れと本件事故の後遺障害のため、収益の大幅な減少を強いられ、珈葡紀の営業を継続する限り、本件事故時の収益を得るまでに回復するには業界の常識に徴し再開から約二年を要するものと解すべきであり、この間事故当時の収益との差額相当の損害を被つたものといわなければならない。

そこで、右の損害を算定するに、時期を区分し、まず、再開から昭和六〇年一月一五日までの三か月については、いずれも実績に基づくこの間の各月ごとの売上から仕入費、固定経費(費目は前記休業損害におけると同じ)を控除した額と本件事故当時の収益四七万七七五一円(これが得べかりし収益である)との差額をみるに、右実績はすべて赤字(合計六五万〇一二七円)であり、かえつて積極的な損害を被つており、結局、この間の損害合計額は右得べかりし収益に右赤字額を加えた二〇八万三三八〇円となる。

次に、昭和六〇年一月一六日から同年一一月一五日までの一〇か月について右同様の手法で損害を求めると、やはり大幅な赤字(合計二六四万五〇三五円)が続いており、損害総額は七四二万二五四五円となる。

さらに、昭和六〇年一一月一六日から昭和六一年七月一五日までについては、実績がないため、便宜上、昭和六〇年七月一六日から赤字収支は解消され、その一年後の昭和六一年七月一五日まで毎月事故当時の収益四七万七七五一円の一二分の一ずつの収益が挙がり、同日時点で本件事故当時の収益を回復することになるとの想定に基づき、これに従つて算出した昭和六〇年一一月一六日以降分の合計一一一万四七四九円が得べかりし逸失利益となる。

以上合計一〇六二万〇六七四円が営業再開後の珈葡紀の逸失利益等損害となるところ、本訴ではこのうち七八四万三七九一円を請求する。

(予備的主張)

仮に前記本件事故当時の収益算定方法が理由がないとすれば、昭和五九年度確定申告の裏付けとした同年分青色申告関係帳簿(甲四二号証)の記載に従つて算定されるべきである。原告鎌田は、過少申告を重ねてきており、昭和五九年度の申告分も本件事故前の分についても同様であるが、前年度申告よりは実際に近付ける申告をしているところ、その際の裏付けとして使用したものが右帳簿(主位的主張の根拠とする甲二二号証の金銭出納帳の売上より控え目である)であり、本件事故後に作成されたものではあるが十分信用に値するからである。

また、珈葡紀再開後の逸失利益等損害の算定についても、主位的主張が理由がないとすれば、再開から昭和五九年一二月末までは、少なくとも主位的主張又は右の予備的主張にかかる本件事故当時の収益額を基礎として、その間の現実の収益を控除する方法が採られるべきであり、さらに、昭和六〇年一月一日以降の分については、右同様にして算出される本件事故当時の収益額を基礎に少なくとも後遺障害等級一四級程度の労働能力喪失率(五パーセント)を乗じた額を逸失利益として認めるべきである。

(5) 藪重関係休業損害及び逸失利益 二〇〇万円

原告鎌田は、本件事故当時藪重で一か月二〇万円の給与を得ていたところ、本件事故のため昭和六〇年五月八日まで向う一〇か月間右給与を得られず、右相当の損害を被つたものである。

(6) 慰藉料 一五〇万円

前記傷害の程度、通院日数、後遺障害、被告らの示談交渉における不誠実等を考慮すると、原告鎌田が本件事故により被つた精神的苦痛に対する慰藉料は一五〇万円とするのが相当である。

(7) 損害の填補 一四八万六一六八円

原告鎌田は、被告会社から前記治療関係費全額を含め合計一四八万六一六八円の損害填補を受けた。

(8) 弁護士費用 一九七万〇〇三二円

前記(2)ないし(6)の損害合計額の一五パーセントとみるのが相当であり、一九七万〇〇三二円となる。

(二) 原告村松 一一万六六六七円

(1) 物損 一〇万一四五〇円

原告はその所有に係る甲車及びこれに備え付けていた出前機を本件事故により破損され、甲車の修理費五万八九五〇円及び新しい出前機の購入費四万二五〇〇円相当の損害を被つた。

(2) 弁護士費用 一万五二一七円

右(1)の一五パーセントに相当する額が相当であり、一万五二一七円となる。

5  よつて、被告ら各自に対し、原告鎌田は、本件事故による損害賠償金一五一〇万三五八一円及びこれに対する本件事故の日の翌日である昭和五九年七月九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合の遅延損害金の、原告村松は損害賠償金一一万六六六七円及びこれに対する原告鎌田同様の遅延損害金の各支払を求める。

二  被告らの認否

1  請求原因1(事故の発生)の事実は認める。

2  同2(責任原因)は、(一)のうち被告会社が自賠法三条にいう乙車の運行供用者であること及び被告井上が被告会社の従業員であり、業務中本件事故を発生させたこと、(二)のうち被告佐藤が被告会社の代表取締役であること、(三)のうち被告井上の進行道路の制限速度が時速三〇キロメートルであること、本件交差点が見通しの悪い交差点であることの各事実は認めるが、右被告両名の責任及び(三)の被告井上の過失は争う。

3  同3(傷害の内容・程度と治療の経過)の傷害の事実は不知。仮に、主張のような受傷があつたとしても、原告鎌田には何らの後遺障害も残存していない。なお、等潤病院、桜井指圧治療院への通院の事実は期間も含め認める。

4  同4(損害)の事実は、(一)の(1)(治療関係費)及び(7)(損害の填補)の各事実(ただし、填補額は原告鎌田の自認額にとどまらず、これを一〇万円上回る一五八万六一六八円である)は認めるが、その余の原告らの損害の主張はすべて不知ないし争う。

まず、藪重関係の損害については、これを裏付けるに足りる信用力のある客観的資料は全く提出されていない。また、珈葡紀関係の損害については原告鎌田は、自己が過少申告をしていた旨強調し、実際の収益と称するものを主張するものであるところ、そもそもかかる主張は損害賠償法理における公平の原則、信義則の見地等から制限されるべきであるし、仮にそうでないとしても、かかる主張が容認されるためには高い証明力ある証拠による立証が要求されるべきところ、同原告の主張する収益を裏付けるに足りる右のごとき証拠は何ら提出されていない。同原告が提出する証拠をいかに検討してみても、その主張する売上に沿う合理的裏付けは得られず、また、営業所得についての休業損害、逸失利益を算定する上で不可欠の経費も不明なままであり、更に、同原告の労務価値が右営業収益に及ぼす寄与率(損害賠償の対象とされるべきは右の限度であり、いかに個人企業であつても営業収益のすべてが当然に賠償対象となるものではない)も明らかではないのであつて、かくては、同原告のいう実際の収益が確定申告を上回つていることがあり得るとしても、到底これを的確に把握し得るものではないというべきである。したがつて、同原告の珈葡紀における収益は、関係証拠の中で最も信用性のある昭和五八年度確定申告書(乙一号証)によつて求められるべきである。ちなみに、仮に同原告が主張するような高収益の計上が事実だとすれば、藪重とかけ持ちで寝る間もほとんどないような無理な労働をする必要は全くなかつたのであり、かかる無理な稼働状況が事実であつたとすれば、珈葡紀の収益が不十分なため、同原告はやむを得ず藪重でも働らき、転業を計画していたとみるのが合理的というべきであろう。

5  同5の主張は争う。

三  被告らの主張

1  免責

被告井上の進路には本件交差点の手前に一時停止の標識が設けられていたが、本件交差点のいずれの交差道路にも優先道路の指定はなく、また、いずれもほぼ同幅員の道路であるから、原告鎌田に優先通行権は認められず、本件交差点の進行方法には道路交通法(以下「道交法」という)三六条一項により左方車優先の原則が適用されることになる。さらに、本件交差点は、右原、被告双方にとつて互いの見通しが極めて悪い交差点であるから、一時停止標識のない原告鎌田も徐行し、交差道路走行車両との交通の安全を確認して進行すべき注意義務を負つていたものである(道交法四二条一項)。

右の道路状況の下で、被告井上は、一時停止の上本件交差点に侵入し、交差道路右方を確認したところ、交差点から約一五・五メートル強の地点を進行してくる原告鎌田を認めたが、安全に通過できる距離であつたことから、そのまま直進した。したがつて、原告鎌田は、前記注意義務に従い、左方車である被告井上の乙車の優先通行を認識し、また、仮にその認識がなかつたとしても、相当な距離的余裕をもつて乙車が交差点の通過にかかつたのであるから、減速徐行し、乙車の通過を待つて進行すべき注意義務を負つていたものである。しかるに、同原告は、右注意義務に違反し、制限速度時速三〇キロメートルを上回る時速三五キロメートルで漫然と進行したため、通過中の乙車の右側後部に自車を衝突させたものである。

右のとおりであるから、被告井上には過失はなく、本件事故は専ら原告鎌田の重大な過失により惹起されたものというべきである。したがつて、被告井上には民法七〇九条の責任はなく、また、乙車には構造上の欠陥も機能上の障害もなかつたから、被告会社は自賠法三条但書により免責され、かつ被告会社及び被告佐藤には本件事故につき民法七一五条の責任もないものというべきである。

2  過失相殺

仮に、右1の主張が理由がないとしても、直前に追つた事故の危険に対し、何らの回避措置も採らなかつた原告鎌田の責任は大きく、損害額の算定に当たつては少なくとも四割の過失相殺を行うべきである。

3  損害の填補

既に述べたとおり、被告会社は原告鎌田の損害の填補のため、同原告に対し合計一五八万六一六八円を支払い、右限度で同原告の損害は填補されている。

四  被告らの主張に対する認否、反論

1  1の免責の主張は、本件交差点が見通しの悪いものであること、被告井上の進路に一時停止の標識があつたこと、原告鎌田の進路が時速三〇キロメートルの速度指定を受けていたこと、乙車の進入時同原告との距離が約一五・五メートルであつたこと及び、本件交差点の交差道路がほぼ同幅員であつたことの各事実は認めるがその余は争う。被告井上に一時停止義務がある以上、同被告の進路が優先道路でない本件では、同被告は交差道路の車両の進行を妨げてはならず、原告鎌田に優先通行権があつたことは明らかである(道交法四三条)。したがつて、被告らに免責の余地はない。

2  2の過失相殺の主張は争う。もつとも、本件事故の態様に照らし、原告鎌田にも本件交差点を通行するに当たり前方の不注視等若干の不適切があつたことは否めないが、その過失割合は二割を上回るものではない。

3  3の損害の填補額は一四八万六一六八円の限度で既に自認しているところである。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、被告らの責任原因の有無について判断する。

1  被告会社及び被告井上の責任

被告会社が乙車を所有し、自己のため運行の用に供していたこと及び本件事故当時被告井上を雇用し、業務の執行に当たらせていたことは当事者間に争いがないが、被告会社は、被告井上には本件事故につき過失がないことなどを指摘して、自賠法三条等の免責を主張するのでこの点から検討する。

(一)  前記争いのない事故発生の事実に、原告鎌田(後記措信しない部分を除く)及び被告井上の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、

(1) 本件交差点は信号機の設置がなく何ら交通整理が行われておらず、ほぼ同幅員の道路が交差する十字路交差点であり、乙車(被告井上)の進路には、右交差点の手前直近に一時停止の標識がある。いずれの交差道路も優先道路の指定はなく、甲車、乙車双方にとつて、本件交差点の互いを視認する角には建物、樹木の遮蔽物があるため見通しが悪い状況であつた。また、右各交差道路にはいずれも時速三〇キロメートルの速度制限が指定されていた(以上の道路状況は、ほぼ当事者間に争いのないところである)。なお、本件事故当時は雨が降つており、路面は濡れていた。

(2) 被告井上は、南花畑方面から環七通り方面へ向けて進行し、本件交差点に差しかかり、交差道路左方の安全を接近走行しながら確認したが、右方の見通しが悪いため乙車の先端を約一メートル強(交差道路の路側帯の線の延長当たりまで)交差点内に乗り入れて一時停止し、交差道路右方からの走行車両の有無を確認したところ、本件交差点から約一五・五メートル(この距離は当事者間に争いがない)の地点に接近してくる甲車を認めたが、その時点での双方間の距離及び甲車の速度がさしたるものではないと感じたことから、先に安全に通過できるものと判断し、ギア操作(ニユートラル状態にあつた)を行つて時速五ないし一〇キロメートルで発進した。その直後、同被告は、自車後部に「コツン」という感じの音を聞き、直ちに停止してドアを開け、後方を見たところ、転倒している甲車を発見した。被告井上は、右発進後は甲車に対し全く注意を払つてはいない。

他方、原告鎌田は藪重の出前のため甲車を運転して綾瀬川方面に進行し、本件交差点に差しかかつたが、右交差点の手前約一五・五メートルの地点に達したとき、交差道路左方から交差点内に進入してくる乙車があると認めた(乙車が一時停止したことまで注視してはいない)が、漫然と乙車が通過した後を進行できるものと考え、速度をそれまでの時速約三〇キロメートル程度から二〇キロメートル(同原告の感覚では一〇キロメートル程度)以下に減速してそのまま進行を続けたところ、同原告の見込みに反して乙車に衝突しそうになり、とつさにハンドルを左に転把して回避しようとしたが間に合わず、横倒しの体勢になりながら自車の前輪を乙車の右側後部(リアフエンダー付近)に衝突させ、乙車に乗車したまま、右衝突地点に転倒した。衝突時の速度がさしたるものでなかつたため、同原告は衝突時の衝撃で身体を投げ出されることもなく、右地点に、左側に転倒し、その際左肘を路面で打ち、右足を後部に備付けの出前機に狭まれるような転倒状況であつた。

(3) 本件の衝突により、乙車はリアフエンダーのタイヤ上部に位置する付近が少し凹損した。他方、甲車は、事故後被告井上が自ら運転して所有者の原告村松に届けているが、その際、走行機能には別段異常は認められなかつた。もつとも、甲車は古い型式の五〇ccのスーパーカブであり、職業運転者の同被告には制動装置の効きがひどく甘く感じられたが、これは本件事故による影響ではなく、元々そのような制動機能であつた。なお、同被告が甲車を原告村松に届けた際、同車及び出前機について本件事故による破損の有無ないしその箇所は特に問題になつてはいない。

また、本件事故発生後、被告井上は、原告鎌田を乙車に同乗させ警察及び病院へ連れて行つているが、その間同原告は左腕を見たり、さすつたりの仕草を見せていたが、痛みその他身体の異常を同被告に訴えることはしていないし、また、本件事故の責任を追及するようなこともしていない。

(4) 被告井上は、本件事故に関し刑事処分は受けていない。

以上の事実が認められ、原告鎌田本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  右認定事実によれば、被告井上は、交通整理が行われておらず、かつ、交差道路右方の見通しが悪い本件交差点に進入するに当たり、右交差点の手前直近に一時停止の道路標識が設置されていたのであるから、一時停止し、交差道路の車両の通行の有無を確認し、その進行を妨害してはならない運転上の注意義務を負つていたものと解すべきである(道交法四三条)。なお、この点たつき、被告らは、交差道路(甲車の進路)が道交法所定の優先道路の指定を受けるものではないこと(同法三六条二項。一時停止の指定が即交差道路を優先道路とみなすものでないことは被告らの指摘するとおりである)等から、甲車との関係では乙車に左方車としての優先通行(同法三六条一項一号)が認められるべきである旨主張するが、右の左方車優先の一般原則は、本件の場合前記道交法四三条後段の規定により適用除外されるものといわなければならず、被告らの右主張は理由がなく、採用できない。

しかるところ、被告井上は、一時停止の上、交差道路右方の確認をしたものの、約一五・五メートルの地点に時速三〇キロメートル程度の速度で接近中の甲車を認めながら、安全に通過できるとの判断の下に本件交差点内に進入し、本件事故に至つたものであるが、右甲、乙車両相互間の距離約一五・五メートルは、甲車の速度三〇キロメートルに徴するとわずか二秒足らずで甲車が到達する距離であり、同被告が右再発進した時点では甲車に対し衝突等危険を防止するためその速度又は方向の急激な変更を強いる状態にあつたものと認めるのが相当というべきであるから、かかる状態下であえて本件交差点への進入を図つた被告井上には甲車の進行妨害(同法二条一項二二号)禁止義務に違反して本件事故に発生させた過失があるものといわざるを得ない。

右のとおりであるから、被告井上は民法七〇九条により、本件事故により原告らが被つた損害があるときはこれを賠償すべき責任があるというべく、また、同被告に責任がないことを前提とする被告会社の免責の主張はその余について判断するまでもなく理由がなく、失当というべきであるから、被告会社は、人身損害につき自賠法三条に基づき、物損につき民法七一五条一項に基づき、被告井上とともに原告らの損害を賠償すべき責任があるものといわなければならない。

2  被告佐藤の責任

原告らは、被告佐藤に対し、同被告が被告会社の代表取締役であること(右当事者間に争いのない事実である)から、本件事故発生につき同被告に被告井上の選任監督を怠つた過失があるとして民法七一五条二項に基づき損害賠償を求めるのであるが、被告佐藤の右選任監督権限の有無、選任監督懈怠の具体的内容について何ら主張、立証がないから、その余について判断するまでもなく原告らの被告佐藤に対する本訴請求は理由がなく、失当として棄却すべきものといわなければならない。

三  次に、原告鎌田の傷害の内容・程度と治療の経過について判断する。

同原告は、本件事故により受傷し、腕・足のしびれ、痛み、下肢のむくみ、膝のふるえ、歩行障害等の後遺障害が生じ、昭和五九年一二月二八日以降も後遺障害等級一四級に該当する旨主張する。そこで検討するのに、同原告が本件事故により受傷し、等潤病院(昭和五九年七月八日から同月三一日までの二四日間に一八日)及び桜井指圧治療院(同年八月二日から同年一二月二八日までの一四九日間に七八日)に通院したことは当事者間に争いのないところ、右事実及び原本の存在、成立ともに争いのない甲三ないし九号証、原告鎌田本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く)によれば、等潤病院ではレントゲン撮影による検査等を受けたが、骨折や脳障害等の重度の受傷、捻挫は認められておらず、左肘部及び左外顆部の擦過創兼打撲、右下腿内出血との診断名が付けられ、投薬及び湿布処置により創傷部は同年七月二八日には治癒の診断が下されている。しかし、同原告が足のむくみ、膝のふるえなどを訴え(右症状の存否、事故との因果関係について同病院の所見を示す資料は何もなく、同原告の主訴事実のみが記録されている)、知人からの聞き伝えで桜井指圧治療院での受診を申し出たことから、等潤病院の医師はこれを容れ、紹介状を作成して転医させるに至つた。ちなみに、右紹介状には「(同原告は)現在下肢のむくみ、膝のふるえを訴え、貴院にての治療を希望しています。」と記載され、右記載内容について等潤病院の医学上の所見は一切記載されていない。桜井指圧治療院の治療内容はマツサージが中心であつたなどの事実が認められ、原告鎌田本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、原告鎌田が本件事故により受けた傷害は、要するに左肘、右下腿部等の擦過創傷、打撲傷にとどまり、前記創傷の治癒後も打撲による痛み、肘や下肢の不具合等の後遺症状が残つていたことはうかがわれるとしても、前記認定の本件事故の態様・程度、傷害の内容等に照らすと特段の事情の立証がない限り右症状の残存期間がさほど長期にわたるものとは考え難いものというべきところ、原告本人尋問の結果をはじめ前掲関係各証拠を精査検討してみても、本件事故から六か月近くを経過した昭和五九年一二月二八日の時点において、なお同原告に本件事故により右のごとき症状が残存することを裏付けるに足りる医学的見地に基づく客観的資料は見い出せず、したがつて、右時点以降もなお同原告に本件事故による後遺障害等級一四級該当の後遺障害が残存しているとの同原告の主張は到底肯認することができないものというべきである。

四  進んで原告らの損害について判断する。

1  原告鎌田

(一)  治療関係費 四六万六二〇〇円

原告鎌田が昭和五九年一二月二八日までの間等潤病院、桜井指圧治療院の治療費として合計四六万六二〇〇円を要したことは当事者間に争いがなく、また、前記説示のとおり、右時点までは本件事故による影響の残存があり、そのための治療も必要であつたと認められるから、右治療費は一応本件事故と相当因果関係のある損害と認めることとする。もつとも、前記傷害の内容・程度及び治療内容に照らすとき、等潤病院へ四日間に三日、桜井指圧治療院へ二日に一回という通院の頻度は適正妥当な治療という観点からは通常とはいい難く、これほどの通院の必要性、合理性には疑問がないわけではないのであつて、右治療費は一応その金額を損害と認めるが、このことは他の損害算定を当然に拘束するものではない。

(二)  通院交通費 七万円

原告鎌田は、通院交通費相当損害として一三万四三一〇円を被つた旨主張し、同原告の報告(原告鎌田本人尋問の結果により成立の真正を認める甲一〇ないし一二号証、一三号証の一ないし四)によれば等潤病院へはすべてタクシーを、桜井指圧治療院へは電車をそれぞれ利用し、右主張額を支出したというものであるところ、前記傷害の内容・程度、通院回数の合理性に疑問があることその他諸般の事情を考慮し、本件事故と相当因果関係のある通院交通費相当の損害は右支出額のほぼ二分の一に当たる七万円と認めるのが相当というべきである。

(三)  食品材料腐敗損 〇円

原告鎌田は、本件事故前に仕入れた材料の腐敗損として二五万六五〇〇円を主張するが、これを裏付けるに足りる領収書等の客観的証拠はなく、わずかに自らの作成した報告書二通(甲一四、一五号証)を提出するのみであるところ、右はいずれも到底右主張額の裏付資料に値いするものではない。すなわち、同原告の主張によれば、本件事故の前六か月の平均材料仕入額は三七万一五〇七円であるから、右腐敗損は当時の一か月の仕入額の約七割に相当することになるが、他方、同原告本人尋問の結果によれば、同原告はいわゆる生ものは一週間分まとめ買いし、野菜類等は都度必要に応じて仕入れるものとしていたというのであり、右腐敗損の主張は右供述と甚だしくかけ離れたものとなる。仮に、特別な例外であり、かつ、領収書も紛失したというのだとしても、同原告が当時毎日正確に記帳していたという金銭出納帳(同原告本人尋問の結果により成立の真正を認める甲二二号証)には右甲一四、一五号証の記載に対応する記帳があるべきはずのところ、まず、不思議なことに甲二二号証は昭和五九年六月二八日分までしか提出されておらず、右記帳があるはずの本件事故前一〇日間分がなく、照合が不可能であり、また、その余の記帳部分と対応してみても、甲一四、一五号証にあるような仕入れの額は近似額にせよ見当たらないものが多い(お好焼店を開業して三年余が経過しているのであるから、多少の変動はあるにせよ、仕入れの間隔ないし回数、量、品目等に類型性が認められるはずである)など、右金銭出納帳によつても、右腐敗損害の発生をうかがうことはできないのである(なお、この点は甲二二号証の記載内容の真ぴよう性をも大きく疑わせるものである)。

右のとおり、食料品材料腐敗損の主張は、これを裏付ける証拠がなく失当というべきである。なお、お好焼店の性質上、突然の休業に伴い、何がしかの仕入食品腐敗損が生じたことは推認に難くないが、その額を確定できない以上、後記休業損害の中で包括評価するのが妥当である。

(四)  休業損害、逸失利益 二一〇万円

(1) 原告鎌田本人尋問の結果によれば、同原告は昭和五六年三月ころ以来北千住駅の近くで、パートの女性一人を雇つてお好焼店珈葡紀を営んでいたところ、本件事故のため昭和五九年一〇月一四日まで約三・三か月(九九日)間休業を余儀なくされ(前記説示のとおり、同原告の傷害はさほど重度なものではないが、同原告本人尋問の結果によれば、同原告が店主として仕入れ、調理、接客等の大半をこなしていたことがうかがわれ、そうだとすればその稼働内容は肉体的、精神的に相当な負担、疲労を伴うものであつたことが推認されなくはないので、右程度の期間の休業は本件事故と一応相当因果関係のあるものと認めるのが相当である)、再開後も相当期間右休業による客離れ、本件事故による受傷の影響等により営業成績の回復ははかばしくなく、この間相当の休業損害及び減収を被つたものと推認され、右推認を覆すに足りる証拠はない。

そこで、右休業損害等を算定するのに、同原告は、主位的に金銭出納帳(前掲甲二二号証)に基づき、本件事故当時の一か月平均の売上を一一五万二一七八円とし、これから仕入額三七万一五〇七円、固定経費二五万五二五四円及び変動経費四万七六六六円を控除したところに、右固定経費を損害として加算して得た七三万二八〇五円(純収益四七万七七五一円)を一か月の収益とし、これを基礎にして請求原因4(一)(4)のとおり休業損害及び将来の見込み減収相当の逸失利益を主張し、予備的に、昭和五九年度確定申告の裏付けにしたという同年分青色申告関係帳簿(原告鎌田本人尋問の結果により成立の真正を認める甲四二号証)により右の間の損害を算定すべきである旨主張するので検討する。

まず、主位的主張であるが、そもそも、本件事故当時、原告鎌田は青色申告者であり、適正な税務申告を行つていたはずのところ、本訴においては、大幅な過少申告をしていた旨強調し、いわゆる実額収益をもつて損害を算定するよう求めるものである。しかし、仮にかかる算定が容認され得る場合があるとしても、右実額なるものは、社会人としての基本的な義務の履行である税務申告においては存在しない収益であると宣言したものであり、本訴のごとく自己に有利な場面に至つて、改めてこれありというためには何人をも得心させるに足りる高度の証明を要するものと解すべきものと思われる。しかるところ、同原告がその主張の基盤とする金銭出納帳(甲二二号証)、その裏付けであるとする甲二三号証の一ないし一二(いずれも原告鎌田本人尋問の結果により成立の真正を認める)の伝票類は一見して明らかに通常業務の過程で作成される体裁ないし様式を著しく欠いている上、内容的にも前記(3)で触れたように仕入れ等の実態に即して日々作成したものと認めるには少なからぬ疑問を抱かざるを得ないのであり、更に、右帳簿類が珈葡紀の日常的な経理処理を反映する基本的資料であるというのであれば、かかる経理処理の継続性、統一性が示されるべきものと思われるが、同原告は本件で損害を主張する期間分のみしか右帳簿類を提出しておらず、かかる点からもこれらが珈葡紀の営業実態を反映する資料とは到底認め難いものであり、結局、同原告主張の実際の収益なるものは何ら合理的根拠を有さないものといわざるを得ず、右主位的主張を容認する余地はないものといわなければならない。そして、右の点は予備的主張についてもほぼ同様に当てはまることであり、前掲甲四二号証の青色申告関係帳簿等も過少申告にかかる実際の収益を記帳したものであるというが、本件事故後(なお、本訴提起は昭和六〇年一月三一日であり、昭和五九年度の確定申告はその後の昭和六〇年二月二〇日である)に作成されたものであり、記帳内容の正確性を裏付けるに足りる客観的かつ合理的資料は見い出し難い(右帳簿に基づく昭和六〇年度の申告は結局申告納税額は〇円である。また、預金の存在―昭和五九年七月末現在で約三〇〇万円(成立に争いのない甲四八号証)―も、ただちにこれが同原告主張の収益を裏付けるものともいい難いものである)。

(2) 右のとおり、原告鎌田の主張する収益はいずれも採用し難いものであるから、最も信用性の高い昭和五八年度確定申告書(成立に争いのない乙一号証)を基礎に、個人飲食業の税務申告の実際をある程度考慮した上で、同原告の事故前の年間売上を一〇〇〇万円、経費率を六割とするのを相当と認め、これにより算定すれば年収四〇〇万円を休業損害等算定の基礎収入とするのが妥当というべきである。

右によれば、同原告の休業損害(三・三か月分)は、一一〇万円と認められる。また、個人飲食店が三・三か月の長期休業を余儀なくされた場合、いわゆる客離れ等の現象による減収があることは経験則上これを肯認し得るところであるが、同原告の場合にその影響する期間、程度がどのようなものであるかについては具体的な立証はない。そこで、傷害の内容・程度、休業期間、店舗の場所的条件(北千住駅の近く)、営業実績年数、経営努力の必要性等諸般の事情を考慮し、その影響する期間を一年間、その程度を最初の半年間につき四割、更に残余の半年間につき一割の減収をもたらすものと認め、これによる算定額に基づき、一〇〇万円を前記休業により余儀なくされた減収相当の損害を認めるのを相当とする。

(五)  藪重関係休業損害等 六〇万円

原告村松及び同鎌田の各本人尋問の結果によれば、原告鎌田は昭和五九年四月から原告村松の経営するそば屋藪重で稼働し、一か月当たり二〇万円の収入を得ていたこと及び本件事故のため右稼働が不可能となり相当の損害を被つたことが認められるところ、当時の原告鎌田の勤務は午前八時から午後四時まで藪重で調理、出前等して働き、午後五時から午前三時まで珈葡紀を営業するというものであり、仮にそれが事実であるとすれば永続性に多大の疑問を抱かざるを得ないこと、本件事故後稼働可能となつた時期に至つても同原告は藪重に再就労の申し出をしていないこと、右一か月の給与支給額二〇万円は源泉徴収票等信用のおける資料による裏付けを欠いていることその他弁論の全趣旨を総合すると、右休業損害は一か月二〇万円とした上でその三か月分を限度として六〇万円と認めるのが相当というべきである。

(六)  慰藉料 八〇万円

本件事故の態様、傷害の内容・程度、通院期間、営業の再開等への影響その他本件審理に顕れた一切の事情を考慮し、本件事故により原告鎌田が被つた精神的苦痛に対する慰藉料は、これを八〇万円と認めるのが相当である。

(七)  過失相殺

前記認定のとおり、本件事故の主因は、被告井上の過失にあるというほかないが、他方原告鎌田においても少なくとも前方不注視ないし具体的な危険回避のため適切な運転操作を誤つた過失があつたものといわざるを得ないから、損害算定に当たつては二割の過失相殺をするのが相当である。

(八)  損害の填補 一五八万六一六八円

原告鎌田が被告会社から一四八万六一六八円の損害填補を受けていることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙二号証によれば同原告は右のほか更に一〇万円の損害填補を受けており、結局右填補額は合計一五八万六一六八円となる。

すると、前記過失相殺後の損害総額三二二万八九六〇円から右填補額を控除すると、残存損害額は一六四万二七九二円となる。

(九)  弁護士費用 一二万円

本件事案の難易度、認容額、審理の経緯その他諸般の事情を考慮し、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当損害額は一二万円と認めるのが相当である。

2  原告村松

原告村松は、本件事故によりその所有する甲車及び備え付けの出前機を破損されたとしてその修理費等損害を請求するものであるが、まず、甲車の損害については、前記認定の本件事故の態様、事故後走行に支障は認められなかつたこと等に照らし果たして修理を要するほどの損傷が生じたものかどうか多大の疑問が残る上、甲車は相当使い古しのものであることがうかがわれること、したがつて、同原告本人尋問の結果により成立の真正を認める甲二七号証による修理明細も本件事故によるものかどうか疑問であること、仮に一部に本件事故によるものがあるとしてもその特定がなされていないこと等から結局損害の有無ないし適正な損害額の立証がないものといわざるを得ず、また、出前機についてもその破損の有無、程度及びそれによる損害額につき的確な裏付け資料を見い出し難く、同原告の本訴請求は理由がなく、失当といわざるを得ない。

五  よつて、原告らの本訴請求は、原告鎌田において、被告会社及び被告井上各自に対し一七六万二七九二円及びこれに対する本件事故の日の翌日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容するが、同原告の右被告両名に対するその余の請求及び被告佐藤に対する請求並びに原告村松の被告らに対する各請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤村啓)

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